ゆうかりタイムス

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ゆうかりタイムスに男性不妊症の話題を連載しています

松戸市の地域ミニコミ紙「ゆうかりタイムス」の「知って得する『体』の話」というコラムに男性不妊症の話を連載しています。

2011年2月号掲載

今回は男性不妊症のお話しです。結婚して通常の夫婦生活を行って2年間妊娠しなければ不妊症と定義されます。日本では結婚したカップルの10組に1組が不妊症です。不妊症というと女性の病気というイメージが根強いですが、不妊症の男女別の原因としては、女性のみに原因がある場合が40%、男性のみが25%、男女双方が25%とされています。すなわち約半数には男性側の要因があるのです。不妊を主訴に受診された男性患者さんに対して最初に行うのは、陰部の診察、精液検査、ホルモン検査(血液)などで体に負担のかかるものはありません。産婦人科で行われる検査に比べるとはるかに簡単ですので早めの受診をお勧めします。せっかく奥様が検査や治療を受けたのに、最後のほうで男性要因が発見されて仕切り直しということも実際にあるのです。

2011年3月号掲載

精液検査は不妊症の検査だけではなく、ブライダルチェックとして行われることもあります。3~5日の禁欲期間の後に採取した精液が良い条件です。近年はコンピューター解析による検査も普及しており、精子数、精子運動率、精子奇形率、精子自動性指標など、かなり詳細なデータが数分で出ます。1ml中の精子数が1500万以下の場合を乏精子症、精子運動率が40%以下の場合を精子無力症、精子が全くいない場合を無精子症と言います。

精液所見に異常があり、子供を作りたい希望であれば、陰部の診察や血液でのホルモン検査などを追加します。陰部の診察では精巣容量の計測を行います。また精索静脈瘤という不妊の原因になる陰嚢内の疾患があり、これもチェックします。精液中に白血球が多く混入している状況を膿精子症といいますが、この場合は前立腺炎を起こしていることがあるので前立腺の診察や抗生物質の投与を行います。精子数の減少は原因不明のことが多く、患者さんの状況に応じて治療を選択していきます。

2011年4月号掲載

精液検査で精子数の減少や精子運動率の低下が見つかった場合でも、そのほとんどは原因が不明です。しかし男性不妊症患者さんの約3割で精索静脈瘤という陰嚢内の疾患が見つかることが知られており、これを治療することで精液所見が改善する可能性があります。精索静脈瘤はほとんどが左側に発生します。静脈血が精巣に向かって逆流を起こすため精巣の温度が上昇して精子形成能に悪影響を及ぼすと考えられています。静脈瘤は立位での陰部の診察や超音波検査で診断が可能です。治療としては血流の滞りを改善させる作用のある漢方薬を使ったり、手術を行ったりします。治療によって約7割の患者さんで精子数が増加し、約3割で治療をきっかけに妊娠すると報告されています。ただし静脈瘤の程度や事前の精液検査の所見などによって治療効果に差があるため、治療方針については専門医との相談が必要です。

2011年5月号掲載

不妊症の検査で精子数や精子運動性の異常が見つかった場合、その多くは原因不明のため、有効な治療法が確立されていません。経験的に効果が認められているものとして、漢方薬やクロミフェンという薬を用いる方法があります。漢方薬は患者さんの体質によって反応が変わりますが、一定の効果は期待できます。クロミフェン療法は脳下垂体からの精巣刺激ホルモンを強化することにより効果をもたらします。また精子の通り道である前立腺に炎症がある場合は、抗生物質を投与することで精子運動性が改善することがあります。サプリメントにも効果が期待されているものがあり、精子形成に必須の微量元素である亜鉛や、活性酸素による細胞障害を防御するコエンザイムQ10やセレン、ビタミンEなどもその有効性が報告されています。しかしサプリメントの多くは保険診療適応外であり、過剰摂取による不利益もあり得るので注意が必要です。

2011年6月号掲載

精子数の減少を招く原因のひとつに高熱があります。精巣はもともと高温環境に弱いので、インフルエンザや扁桃腺炎などの感染症で高熱が数日続くと精子数が著しく減少することがあります。しかしこの変化は一時的なもので2・3か月すると回復してきます。

男性が大人になってからおたふくかぜに罹ると精子がいなくなる、という話しを聞いたことがあるかもしれません。おたふくかぜウイルス感染は成人では精巣炎を起こすことがあり、精巣の腫れと痛みが数日間続きます。従来はこれによって高率に無精子症に移行すると考えられていました。しかし最近では、精巣炎の影響は限局的で、前述の一般感染症と同様に高熱による精巣の障害が主体であり、精子数の減少は一時的であると認識されています。いずれにしても子作りを考えている、または不妊治療中の男性は高熱を起こさないよう気を付ける必要があると言えます。

2011年7月号掲載

精液中に精子が全くいない場合を無精子症と言います。原因は大きく2つあり、精子の通り道が塞がっている場合と、精巣で精子を作る働きが著しく低下している場合とがあります。前者を閉塞性無精子症、後者を非閉塞性無精子症と呼び、精巣の大きさと血液中のホルモン値によって鑑別が可能です。閉塞性無精子症では閉塞部位が確定できれば通り道の再建も検討しますが、近年は精巣内精子採取手術(TESE)という方法が広く行われています。TESEでは精巣を直接切開して組織の一部を取り出し、顕微鏡下に精子を探します。得られた精子はパートナーの卵子に直接注入する顕微授精に供して妊娠を試みます。もともと精子形成能が低い非閉塞性無精子症では現在のことろTESEが唯一の治療法ということになります。しかし実際には精子が回収できないことも多く、それでもお子さんを希望する場合は第三者の精子の提供を受ける非配偶者間人工授精(AID)や養子縁組を紹介することになります。

2011年8月号掲載

前回から無精子症のお話しをしています。精子がいないとなれば絶望的な状況というイメージがありますし、実際に精巣の機能が著しく低下している非閉塞性無精子症では決め手になる治療法が確立されていないのが現状です。しかし中には治療によって精子を作る働きが回復する病気も存在します。これが低ゴナドトロピ ン性男子性腺機能低下症(MHH)という疾患です。精巣は脳下垂体から放出される2種類の精巣刺激ホルモンの作用で男性ホルモンを作ったり精子を作ったりします。つまり精巣は脳からの指令がなければ正常の機能を果たせないのです。この精巣刺激ホルモンの分泌が何らかの原因で低下した状態がMHHです。本疾患では精巣刺激ホルモンを注射で投与することで精巣の働きを回復させることが可能であり、無精子症の場合でも自然妊娠が可能になることもあります。このように無精子症にも様々な病態が存在しますので、専門医による正確な診断を受けることが肝要です。

2011年9月号掲載

不妊症の検査で男性側に極めて重大な問題が見つかった場合、当事者の男性が受ける精神的なダメージは計り知れません。特に無精子症の場合は、がんの宣告にも近い衝撃が予想されますし、医療側にも慎重な対応が求められます。このような患者さんの不安、喪失感、孤独感、抑うつ状態といった否定的心理状態をサポートするのが不妊カウンセリングです。

専門の学会で養成・認定を受けた不妊カウンセラーが対応します。もともとは体外受精を受ける女性の患者さんなどを対象に行われていましたが、近年は男性不妊に対応するカウンセラーも増えてきました。不妊治療に関しては様々な情報がインターネットや書物などに氾濫しており、時に混乱を来します。また、男性不妊に関する情報が女性の不妊に比べて極端に少ないため、更に不安を煽りがちです。不妊カウンセリングを利用することで正しい情報だけを共有し、治療や今後のことに対する不安を和らげることが可能となります。